管理栄養学部

なるほど豆知識タンパク質分解の3つの舞台

三大栄養素の一つであるタンパク質は、アミノ酸がペプチド結合で鎖のようにつながったポリペプチド鎖からできています。

私たちの体内でアミノ酸をつないでタンパク質を合成する場所は細胞の内部にあるリボソームというところですが、今回のお話のテーマであるタンパク質の分解は体の中のさまざまな場所でタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)とよばれる酵素によって行われています。

ユビキチン–プロテアソーム系の発見で2004年にノーベル化学賞を受賞したアーロン・チェハノバ博士は、私たちの体の中でおきているタンパク質の分解は大きく分けて3つのレベル(階層)でおきていると述べられています(「国際学会のための科学英語絶対リスニング」、羊土社、2005年)。つまり、(1)消化管内、(2)血管内、(3)細胞内、です。この3つのレベルでのタンパク質分解について、簡単に説明します。

 

(1)消化管内(外界とつながっている点では私たちの体の外部であり、細胞の外の場所)

私たちが食事で摂取した大豆・魚・肉などに含まれるタンパク質の分解(消化)は、胃から始まります。タンパク質はまず胃酸によって変性を受け、さらに、タンパク質分解酵素(プロテアーゼ)の一種である消化酵素ペプシンによって分解されます。ある程度胃で消化されたタンパク質は、さらに、十二指腸に分泌されて活性化したトリプシンなどの消化酵素によって1個のアミノ酸、あるいは2個か3個のアミノ酸でできた小さいペプチドの状態まで分解され、小腸の粘膜上皮細胞から吸収されます。

ペプシンやトリプシンなど細胞の外で働くプロテアーゼの多くは、細胞の内部で活性のない酵素前駆体(ペプシノーゲンやトリプシノーゲンなど)として生合成されて細胞の外に分泌され、そして、実際に働くべきところに到着してから他のプロテアーゼなどによって限定分解を受けて活性化されます。

もし、細胞の内部で活性がある状態で合成されると、細胞自身のタンパク質が分解されて細胞がダメージを受けてしまうからです。

プロテアーゼの酵素前駆体(チモーゲンともいいます)にはその酵素活性を抑える部分があり、その部分が限定分解で取り除かれると活性化するしくみになっています(図1参照)。

(2)血管内(私たちの体の内部で、細胞の外の場所)

血液は正常な血管内では凝固しないようになっていますが、一旦血管が損傷して出血がおきると、すぐに傷口で血小板が粘着・凝集するとともに血液が凝固して止血します。

血液の凝固の過程(血液凝固系)では、血漿中に含まれる一連の血液凝固因子が決まった順番で活性化する反応がおこります。

この時、血液凝固因子のあるものはプロテアーゼ活性をもっており、活性化すると次の順番の血液凝固因子を部分分解(切断)します。すると、部分分解された血液凝固因子が活性化して、また、その次の血液凝固因子を部分分解(切断)するという、ドミノ倒しのような連続反応がおこります。そして最後に、フィブリノゲンというタンパク質が分解されてフィブリンというタンパク質でできたかたまりができて、止血が完了します。

このように、消化管内や血管内で(細胞の外で)働くプロテアーゼの多くは、活性のない酵素前駆体(チモーゲン)として生合成され、その後、限定分解を受けると活性化するしくみとなっており、活性がうまくコントロールされています。

 

(3)細胞内(私たちの体を作っている細胞の内部)

細胞内では常に不良品となったタンパク質、不要なタンパク質は分解されており、また、エネルギーが不足した場合にはタンパク質を分解し、それから得たアミノ酸からエネルギーを作るしくみがあります。細胞の内部のリソソームという場所では、細胞の外から取り入れたタンパク質や細胞膜に存在するタンパク質などが分解されています。

また、オートファジー–リソソーム系は、エネルギーが不足した時などに、細胞が自分自身の一部(ミトコンドリアなど)をリソソームで分解するシステムです。

一方、リソソーム系とは別のタンパク質分解系であるユビキチン–プロテアソーム系では、処理すべきタンパク質にユビキチンとよばれる小さなタンパク質が結合(ユビキチン化)すると、それが目印となってユビキチン化タンパク質がプロテアソームというタンパク質を分解する場所に運ばれて分解されます(図2参照)。

このユビキチン–プロテアソーム系はエネルギーを使ってタンパク質分解を行っているという特徴をもち、異常なタンパク質の選択的な除去を行うだけでなく、細胞の増殖・分裂や免疫応答の制御なども行っています。

健康な成人の体内では、1日200~250 g 程度のタンパク質が生合成される一方で同量のタンパク質が分解されており、また、1日に摂取したタンパク質の量と体外へ排泄されるタンパク質の量も同じです。

このようなタンパク質の生合成と分解、摂取と排泄のバランスはいろいろなしくみで保たれていますが、病気になるとそのバランスが崩れることがあります。

たとえば、タンパク質の排泄量がタンパク質の摂取量より多い状態が続くと、体の中でタンパク質が最もたくさん存在する場所である筋肉の量が減少します。また、上述しましたユビキチン–プロテアソーム系に障害がおきて異常タンパク質が蓄積するような病気も知られています。

分子医学研究室 井澤一郎