化学・生物学
私たちの体は、約60兆個の細胞からできていますが、ひとつひとつの細胞の内部には、細胞小器官(オルガネラ)とよばれる構造があり、それぞれ特別なはたらきをしています。
今回お話するミトコンドリアは、私たちが生きていくために必要なエネルギーを産生する細胞小器官です。
私たちの細胞は、核膜で包まれた核をもつ真核細胞とよばれる細胞ですが、ずっと昔に、真核細胞の祖先の細胞に飲み込まれた細菌が、真核細胞と一緒に仲良く助け合って暮らしてきた(共生)ものが、ミトコンドリアと考えられています。このため、ミトコンドリアは、独自のDNA(ミトコンドリアDNA、mtDNA)をもっています。核のDNAでは、父親と母親の遺伝情報が受け継がれますが、不思議なことに、子供のミトコンドリアDNAは、母親のミトコンドリアDNAだけが受け継がれます。
ミトコンドリアは、内膜と外膜の2重の膜構造をもっており、形は、その祖先である細菌と似ていますが、細胞の種類によっては、ミトコンドリアがつながって、網目状になっていることもあります。図で示した細胞染色像では、ヒトの培養細胞のミトコンドリアが、赤色で染められています(核は青色に染色されています)。
ミトコンドリアの最も大切なはたらきは、エネルギーを産生することですが、それは、摂取した栄養素を分解して得られた小分子を用いてアデノシン三リン酸(ATP)をつくることによって行なわれます。ATPを分解するとエネルギーが放出するので、ATPはエネルギーに交換できるお金のような物質です。少し難しくなりますが、ミトコンドリアはこの他に、活性酸素の産生、アポトーシス(プログラム細胞死)の制御、細胞内カルシウムイオンの調節なども行っています。
ミトコンドリアの機能が障害された病態をミトコンドリア病と呼びます。ミトコンドリアの機能が失われてエネルギー代謝障害を引き起こすため、ミトコンドリア病では、心臓障害、中枢神経系障害、筋力低下、腎障害、肝障害などの症状が現れます。
ミトコンドリアでは、エネルギー代謝とアミノ酸や脂肪酸の代謝が密接に関連して行われていますが、その実態が最近の研究でどんどん明らかになってきています。そして、そのような研究の進歩によって、ヒトの健康増進につながる治療薬などが開発されてきています。