社会と健康
<文化とは>
文化には学問的用法において、二つ用法を挙げることができます。第一は、学問、芸術、宗教、道徳のように、主として精神的活動から直接的に生み出されたもの。第二は、あらゆる人間集団がそれぞれもっている生活様式を広く総称したもの。第一の用法は個別文化の間に高低・優劣という評価を伴いがちですが、第二の用法はこうした評価を下し評価を下しません。第二の用法の「文化」について説明したいと思います。
文化とは、集団の一員として学習、伝達されるものが、思考、感情、衣、食、住、機械、制度など、一つのセットとして統合性をもつ総体と定義されています。これらの構成諸要素は言語、価値、社会、技術の4分野に大別されます。
各集団はそれぞれ、文化の構成要素を無秩序かつ恣意的に寄せ集めるのではなく、集団の選択意思が働いています。こうした過程のなかで、諸要素は統合され、一つの全体を構成し、結果として独自性を持つ個別文化が形成されます。個別文化は長期間にわたり、外部的・内部的な調整を経て統合され、独自なパターンを形成したものなので、変化しにくいのですが、内部諸要素間の矛盾、または外部環境の変化にうまく適応できないで、統合性が弱くなると、別の新しい統合を求めて変化が生じます。
文化には、構成する諸要素を直接に知覚し、気づきやすい顕在的文化と、気づきにくい基層文化があります。後者は前者に比べ変化しにくいので、両者間にずれが生じやすいといわれています。例えば、明治以降の日本において、産業や制度は急速に欧米化・近代化が進みましたが、日常生活、家族観、男女観などには古い伝統や因習が強く残っており、おおきな「ずれ」がみられます。
<食文化とは>
食文化は、食(食事)に関する文化といえますが、まだ確立されていない分野です。
文化が環境の影響を受けるように、文化の一部である食文化も環境の影響を受けます。さらに環境の一部である食環境は、食文化に影響を与えるだけでなく、食文化の一部とも考えることができます。
食環境におけるフードシステム、とりわけ「農」は風土により決定づけられます。風土とは、その土地の気候・気象、植生、地形、地質、水などの環境です。そして、風土と「農」、「食品産業」の各主体が相互に規定し合いながらフードシステムを形成していきます。
文化と同様、食文化においても外部の食環境の変化にうまく適応できないで、統合性が弱くなれば、別の新しい統合を求めて変化が生じることとなります。現代社会では、食環境における環境側のフードシステムや食情報システムだけをみても均一化の方向に向かっている面があります。その背景にはグローバリゼーションがあります。このような食文化のグローバリゼーションや欧米化、近代化の中で、世界各地で顕在的文化と基層文化のずれが生じ、新たな栄養・食問題が生じています。
食文化の成り立ちから、現在の自分の食生活を振り返り、より健康で社会の持続可能な発展のためにはどのような食生活が望ましいのか考えてみましょう。