医療と健康
厚生労働省が毎年集計・公表している出生・死産・死亡・婚姻・離婚についての人口の動きを表す統計資料を「人口動態統計」といいます。下の図は、そのうちの「悪性新生物(がん)」に関する男性の部位別死亡率の年次推移を示したものです。
図.部位別にみたがんの死亡率の年次推移,男-昭和25~平成27年-Trends in death rates for cancers by site, Male, 1950-2015【 厚生労働省政策統括官 平成29年我が国の人口動態(平成27年までの動向)より引用 】
図を見る限り、多くのがんの死亡率が右肩上がり、すなわち増加傾向であることが分かりますが、これは日本における高齢者の割合が増えてきているので、疾患を問わず死亡する人数が増加するため、当たり前のことといえます。(この影響を考慮したものを「年齢調整死亡率」といいますが、それはまた別の機会に。)
そんな中で、「胃がん」に関しては、近年横ばい・もしくは減少している傾向が見受けられます。
これは一体どういうことでしょうか?
現在、がんの早期発見・早期治療を目的とした「がん検診」が普及している中、「胃がん検診」の受診率が年々増加しています。その検査方法の一つとして「上部消化管内視鏡検査」が挙げられますが、これは超小型カメラを体内に入れ、消化管内の様子を医師が診断するいわゆる「胃カメラ」と呼ばれるものです。(正確には初期の「胃カメラ」と現在の「ファイバースコープ」は別のものとして区別されています。)
この「胃カメラ」の普及により、早期のがんを発見し、比較的初期の段階で治療することが可能となったため、結果として「胃がん」によって死亡する人が減少したことが考えられます。また同時に、まだまだ不明な点が多いものの「ヘリコバクター・ピロリ菌」の除菌治療が普及してきていることも理由の一つとして考えられています。
ちなみに、現在のようなファイバースコープ付きの「胃カメラ」が世に普及したのは、1970年代といわれていますので、まさに統計資料における「胃がん」の死亡率が下がり始めた年代に当てはまっているのが面白いですよね。
このように、統計資料は単に結果を知るものではなく、長年の推移から疾患や医療の進歩の背景を読み取ることができるのです。
【参考文献】