化学・生物学
私たち人間はどうやって味覚を受け取るのか。それは、「味」という化学信号を電気信号に変換する細胞によって受容される。その細胞を味細胞という。ヒトにおいて、味細胞は舌のみならず、上顎に存在する軟口蓋、そして喉頭にも分布しており、最近の研究では胃にも味細胞が発現している事が示されている。これら味細胞が食物から出てくる味物質を受け取り、その情報を脳へ伝えている。味細胞を一番多く有する器官は舌である。舌には大きく分けて4種類の乳頭が存在する。糸状乳頭、茸状乳頭、葉状乳頭、有郭乳頭である。糸状乳頭は小さい円錐型の突起で、食べ物を口にした際にその成分が舌に残りやすいように働いている。ネコは糸状乳頭が非常に発達しており、ネコに舐められるとザラザラとした感覚を受ける。それは、ネコの糸状乳頭が約2 mmもの長さを持つあるからであり、この糸状乳頭はネコが毛づくろいをする際や、食餌を行う際に役立っている。ヒトの糸状乳頭はせいぜい~0.3 mmの長さである。この糸状乳頭に味細胞は存在しない。一方、他の舌突起である茸状乳頭、葉状乳頭、有郭乳頭には複数の味細胞が分布している。茸状乳頭は舌表面に、葉状乳頭は舌側面に、そして有郭乳頭は舌奥に分布し、そこには味蕾と呼ばれる構造を複数有している。1個の味蕾は、約50~100個の味細胞が集まって形成されている(図1)。これらすべての味細胞が味を受容するのではない。味蕾を構成する味細胞は各々の役割を担っている。その役割から味細胞は4種類(I型~IV型細胞)に分類されている。I型細胞は支持細胞ともいわれ、味蕾の形態維持に役立っている。II型細胞は味受容細胞であり、甘味、旨味、苦味を受容する。III型細胞は味覚を脳へ伝える神経である味神経とシナプスを形成している細胞で、塩味、酸味を受容する細胞である。IV型細胞は基底細胞ともいわれ、味細胞が脱落した際に、新たな味細胞を生み出す幹細胞として機能している。味細胞は寿命がとても短く、せいぜい9日間であり、古くなった味細胞はすぐに生まれ変わる特徴を持っている。これは、味覚を正しく認知する事が生命維持にとって重要であることを示している。II型およびIII型細胞が受け取った味情報は味神経を経由し脳へと伝えられる。一般的に特殊感覚を脳へ伝える神経は1種類である。視覚は視神経が、嗅覚は嗅神経が、そして聴覚は内耳神経がそれぞれの情報を脳へ伝える。しかし、味覚を脳へ伝える味神経は種類が多く、3種類の脳神経が脳へ味覚情報を伝えている。顔面神経、舌咽神経、迷走神経である。これは味覚を受容できる場所が広いことに起因する。舌の前方で受け取った味情報は顔面神経が脳へ情報を送る。舌奥で受け取った味情報(葉状乳頭や有郭乳頭味蕾が受け取った味情報)は舌咽神経が、そして軟口蓋や喉頭で受容した味情報は迷走神経を介して脳へ情報を伝えている。これらの働きにより、私たち人間は味覚を検知できるのである。