化学・生物学
私たちが生命を維持していくためには、外界から栄養を摂取する必要があります。栄養素の中でも、炭水化物(糖質)、たんぱく質、脂質、ビタミン、ミネラルの5種類は「五大栄養素」と呼ばれており、体にとってとても大切な栄養素です。そのうちミネラルは体の中で作ることができないため、毎日の食事から摂る必要があります。
ミネラルのひとつにカルシウムがあります。このカルシウムは生体において5番目に量の多い元素であり、成人では約1,000gのカルシウムを持っていますが、その95%以上は骨や歯などの硬い組織に存在します。残り5%のカルシウムはカルシウムイオンとして存在することで、生体において極めて重要な役割を担います。
例えば、私たちは生きるために「横隔膜」と呼ばれる筋肉を使って呼吸をし、その取り入れた酸素を運ぶため、「心臓」という筋肉を使って全身に運んでいます。これら呼吸や心臓の拍動といった筋活動はすべて、カルシウムイオンのおかげです。筋細胞の中でカルシウムイオン濃度が上昇することにより、筋肉の機能単位である筋節(サルコメア)が中心に向かって縮むことができるようになります(下図参照)。この筋節の一つ一つが中心に向かって縮むことで、筋肉は全体的に大きな収縮を見せるのです。つまり筋肉の収縮にはカルシウムイオンが必要不可欠なのです。
では、カルシウムイオンがなくなると、人間はどうなるのでしょうか?呼吸を行っている「横隔膜」も、血液を全身に運んでいる「心臓」も収縮しなくなります。そうすると呼吸はできなくなり、心臓は止まり、人間は死んでしまいます。しかし、体にはカルシウムを貯蔵する場所があります。先ほど紹介しました骨や歯などの硬組織です。もし、栄養としてカルシウムを摂取しなくなると、筋肉は収縮するためにカルシウムイオンを必要としますので、骨や歯を溶かしてカルシウムイオンを作ります。すると、骨や歯はボロボロになっていきます。そうならないように、日々のカルシウム摂取がとても重要なのです。
筋収縮におけるカルシウムイオンの役割
筋節内でカルシウムイオン(Ca2+)濃度が上昇することで、筋節の一つ一つが中心に向かって縮むことができるようになる。