社会と健康
9兆2,290億円って想像つくでしょうか?
毎日10,000円ずつ使ったとしても250万年以上かかります。また、9兆円分の1万円札を積んでいくと、なんと高さは90,000メートル!世界最高峰のエベレスト山が8,848メートルですので、その10倍以上にもなるのです。
実はこの金額は平成28年度にかかった介護保険の給付額です(平成28年度 介護保険事業状況報告)。介護保険制度とは、介護が必要になった高齢者を社会全体で支えるしくみです。このお金は、公費(国、都道府県、市町村)が50%、40歳以上の人が残りの50%を出すことでまかなっています。
この介護保険制度が誕生した平成12年では、要介護者(=介護を受けている人)数は約250万人、介護給付額は約3兆円でした。それがわずか15年ほどで要介護者が630万人と増大し、介護給付費も3倍に膨れ上がりました。
日本の高齢化は2050~60年ごろまで続き、2065年の高齢化率(=65歳以上の割合)は38.4%に達して、国民の約2.6人に1人が65歳以上の高齢者となる社会が到来すると推計されています(平成29年版 高齢社会白書)。そのため、この問題はさらに深刻化していくことでしょう。
さて、上の図は、要介護の原因を年代別にまとめたものです。黒枠で囲った部分の割合が、年齢が増すごとに大きくなっていきます。この「骨折・転倒」、「高齢による衰弱」「認知症」を老年症候群と呼びます。これらはフレイルに関連している症候となります。
フレイルとは、高齢期に生理的予備能が低下することでストレスに対する脆弱性が亢進し、生活機能障害、要介護状態、死亡などの転帰に陥りやすい状態です(フレイルに関する日本老年医学会からのステートメント)。簡単に言えば、身体や精神、社会性が衰え、病気になりやすかったりストレスに弱くなる状態を指します。
フレイルは年齢を重ねれば誰でも起こりうる症状です。また、フレイルを有症していると、上図のように3年間の健康障害の確率も高くなります。
このように、要介護や健康障害の原因となり、さらには年齢を重ねれば誰でも陥る可能性のあるフレイルですが、実は、適切な介入をすれば、再び健康な状態に回復する可能性を持っているのです。適切な介入方法を見つけることで、フレイルを予防し、冒頭でお話した介護給付費の問題の一端を解決することができます。
そのため、現在も多くの研究者が日夜フレイルの研究に励んでいます。フレイルのさらに詳しいお話や、現在どのような研究が行われて、食事や栄養がどのように役に立つかなどは、またこのコーナーのどこかでお話していきます。