管理栄養学部

なるほど豆知識お酒ができる仕組みの解明と、生化学の発展

生物は、自分が生きていくために必要なエネルギーを、摂取した食物を分解して手に入れています。また生物は、食物が分解されてできた小さい物質を組み合わせて、自分の体を作ります。

つまり、生物の中では様々な物質がつねに変化しています。物質が変化することを「化学反応」といいます。すなわち、生物の中では様々な化学反応がおこっているのです。

生物の中で食物がどのような化学反応によって分解されていくのか、また、生物の体がどのような化学反応によって作られていくのかを学ぶ科目が「生化学」です。しかし、生物そのものをいくら観察してみても、ある物質がどういう順番で別の物質に変化していくのかは、よくわかりません。生物の中では、たくさんの化学反応が同時におこっているからです。

では、生物の中で物質が変化していく様子を、人はどのようにして知ることができたのでしょうか?実はそれは、お酒づくりの仕組みの解明と深く関係しています。今日は、そのお話をしたいと思います。

果物や穀物の汁をおいておくと、やがてお酒に変化します。果物や穀物に含まれる糖分がアルコールや炭酸に変わるこの現象のことを、「発酵」といいます。

発酵は、有史以前(六千年以上前)からお酒づくりやパンづくりに利用されてきた現象です。しかし、どうしてそういうことがおこるのかは、長い間わかっていませんでした。

「酵母(イースト)」という微生物のはたらきで発酵がおこるということがドイツのシュワンという人によって明らかにされたのは、19世紀(1800年代)になってからのことです。

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テオドール・シュワン(1810年〜1882年)

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また1856年に、フランスのパスツールという人が「発酵中のワインを加熱して酵母を死滅させると、それ以上発酵が進まなくなる」ことを発見しました。このことからパスツールは「糖分をアルコールや炭酸に変える物質(酵素)は、酵母が生きていないと働かない」と主張しました。

なお「酵素」とは、生物が化学反応を進める(ある物質を別の物質に変化させる)ためにつくるタンパク質のことを言います。酵素は英語でEnzyme(エンザイム)といいますが、これはギリシャ語で「酵母の中」という意味です。

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ルイ・パスツール(1822年〜1895年)

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ところが1897年に、ドイツのブフナーという人が「酵母をすりつぶして死滅させた液に砂糖を加えると、砂糖がアルコールと炭酸ガスに変化する」ことを発見しました。つまり、「酵母が死んだとしても、酵素はまだ働くことができる」ということが明らかになりました。

ちなみに、先のパスツールの実験では加熱により酵素も壊れてしまっていたので、発酵がとまってしまったわけです。

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エドゥアルト・ブフナー(1860年〜1917年)

 

この発見を聞いた世界中の科学者は「生物の中にはたくさんの(数千種類)酵素があるから、同時にたくさんの化学反応が起こっている。しかし、酵素を一つずつ生物から取り出して試験管の中で調べれば、生物の中で同時におこっているたくさんの化学反応を一つずつ別々に調べられる。」ことに気がつきました。

その後、酵母を始めとする多くの生物からたくさんの酵素が取り出され、それらの酵素がどのような化学反応を進めるのかが、試験管の中で一つずつ明らかにされていきました。

それらの発見を積み重ねていくことにより、生物の中で食物が分解されていく様子や、体が作られていく様子がわかったのです。

生物化学研究室 間崎剛