化学・生物学
皆さんは、親の特徴が子供へ伝わること(目はお父さんに似ていて、口はお母さんに似ているとか)を知っていますよね?
このように親の特徴や性質が子供に伝わる現象を「遺伝」といい、そのために親から子供へ伝わる物質を「遺伝子」といいます。(「○○子」とは「○○の働きをするもの」という意味です)
しかし、ほんの70年前までは、遺伝子がどういう物質なのかわかっていませんでした。(ほとんどの人が「タンパク質だろう」と思っていました)
今日は、遺伝子の正体がDNA(デオキシリボ核酸)であることが明らかになった実験についてお話します。
まず1920年代に、イギリスのグリフィスという人が、2種類の肺炎双球菌(病原性のS型菌と無毒なR型菌)を使って、次のような実験をしました。
① 生きたS型菌を、マウスに注射する
② 生きたR型菌を、マウスに注射する
③ 加熱殺菌したS型菌を、マウスに注射する
①の場合、マウスは肺炎を起こして死亡しました。しかし、無毒なR型菌を注射した②の場合には、マウスは元気なままでした。そして③の場合は、S型菌が加熱で殺菌されていたので、マウスは死にませんでした。(死んだS型菌は肺炎をおこさないことがわかりますね)
そこで次に、こんな実験をしてみました。
④ 生きたR型菌と加熱殺菌したS型菌とを混ぜ、それをマウスに注射する
どういう結果になったと思いますか? 「生きているR型菌は無毒だし、死んだS型菌は加熱で殺菌されているから、マウスは死なないだろう」と思いませんか?ところが、マウスは肺炎を起こして死んでしまったのです。S型菌の死骸の中に、無毒なR型菌を病原性のS型菌に変えてしまう「何か」があったのですね。
「理系なら知っておきたい 生物の基本ノート 生化学・分子生物学編」(山川 善輝・著/KADOKAWA 中経出版)p128掲載図版
この実験結果を聞いたアメリカのアベリーという人は、「無毒なR型菌を病原性の菌に変えてしまう物質こそが、遺伝子の正体だ」と考え、1940年代に次のような実験をしました。
⑤ S型菌のタンパク質と、生きたR型菌とを混ぜる
⑥ S型菌の多糖類と、生きたR型菌とを混ぜる
⑦ S型菌のDNAと、生きたR型菌とを混ぜる
どの実験の場合に、無毒なR型菌が病原性のS型菌に変わったと思いますか?
当時の多くの学者は、⑤の場合(タンパク質を混ぜた場合)にR型菌がS型菌に変わるだろうと思っていました。
ところが実際には、生きたR型菌にS型菌のDNAを加えた時(⑦の場合)にR型菌がS型菌に変わったのです。つまり、その生き物の性質や特徴はDNAに記録されているということが明らかになったのですね。
「理系なら知っておきたい 生物の基本ノート 生化学・分子生物学編」(山川 善輝・著/KADOKAWA 中経出版)p129掲載図版
これが、それまでは役割がよくわからなかったDNAという物質が、生き物の特徴を子孫へ伝える遺伝子の正体だとわかった瞬間です。