管理栄養士の視点で食物アレルギーを攻略する
現代社会において「食物アレルギー」は重要な健康課題の一つです。食物アレルギーの研究は、農学や工学といった基礎分野と医学の臨床分野から、日進月歩で行われています。本研究室は、実験を行う基礎分野の研究にあたりますが、時には病院と共同研究体制をとり、アレルギー患者さんの血清を使用しアレルゲンを解析しています。何より、学生は「管理栄養士の卵」なので、食品中のアレルゲンをただ解析するのではなく、調理・加工したらアレルゲンがどのような状態になるのか、アレルゲン性はどのように変化するのか、という視点で食物アレルギーを研究しています。
研究テーマ
母乳と牛乳の交差抗原性
食物アレルギーの二重抗原暴露仮説とは、食物抗原(アレルゲン)が経皮的に暴露されると感作が成立し、経口的に暴露(摂取)されると免疫獲得するという考え方です。しかし、母乳で育った児でも牛乳アレルギーをきたす場合があります。母乳(人乳)と牛乳のタンパク質の組成が違うことは明らかですが、本研究室ではさらに、母乳と牛乳タンパク質間の相同性が異なる(交差抗原性が低い)のではないかと考えました。病院から母乳やアレルギー患者血清を分与いただきながら解析しています。
木の実アレルギーが急増する要因
これまで食物アレルギーの3大アレルゲン(原因食物)として「鶏卵」「牛乳」「小麦」があげられていました。しかし、令和6年度の消費者庁による調査報告書では、「鶏卵」「木の実(ナッツ)類」「牛乳」が上位を占め、特に「くるみ」による食物アレルギーがここ数年で急増しています。この要因として、木の実類の輸入量の増加により我われ日本人の環境中に木の実類が増えたからだとする見立てが一般的です。一方で、「アーモンド」の輸入量は以前より多かったにも関わらず、アーモンドによるアレルギーは多くはありません。そこで、この「クルミ」と「アーモンド」の感作率の違いには環境中にあふれる加工食品の違いが影響していると考えました。つまり、クルミは調理・加工により抗原性が増加し、アーモンドは低下するのでは?と考え解析しています。
溶解性とアレルゲン性の関係
鶏卵や牛乳は、パンやクッキー、マフィンのように焼成することでそのアレルゲン性が低下します。これにはタンパク質(アレルゲン)の溶解性が関与しているのではないかと考え、10年近く研究しています。現在も病院と手を組みながら解析しています。
教員の紹介
内藤宙大 助教
担当科目/化学入門、基礎化学、基礎食品栄養学実験、栄養学(食品学)
博士(栄養科学)/管理栄養士 専門:食物アレルギー
大学院から現在に至るまで、牛乳や鶏卵を中心にアレルゲンを解析し、これまで多方面から多くの解析がされてきた食品であってもさらに新しい発見があることに魅力を感じ、食物アレルギーの研究を続けています。